桃の伝説
折口信夫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)実《ナ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)いざなぎの命[#「いざなぎの命」に傍線]

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)秦《ハタ》[#(ノ)]河勝《カハカツ》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)われ/\
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「桃・栗三年、柿八年、柚は九年の花盛り」といふ諺唄がある。実《ナ》りものゝ樹としては、桃は果実を結ぶのは早い方である。
一体、桃には、魔除け・悪気ばらひの力があるものと信ぜられて来てゐる。わが国古代にも、既に、此桃の神秘な力を利用した話がある。黄泉の国に愛妻を見棄てゝ、遁れ帰られたいざなぎの命[#「いざなぎの命」に傍線]は、後から追ひすがる黄泉醜女《ヨモツシコメ》をはらふ為に、桃の実を三つとりちぎつて、待ち受けて、投げつけた。其で、悪霊から脱れる事ができたので「今、おれを助けてくれた様に、人間たちが苦瀬《ウキセ》に墜ちて悩んだ場合にも、やはりかうして助けてやつてくれ」と、桃に言ひつけて、其名として、おほかむつみの命[#「
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