おほかむつみの命」に傍線]といふのを下されたと伝へてゐる。
後世の学者は、桃の魔除けの力を、此神話並びに支那の雑書類に見えた桃のまぢっく[#「まぢっく」に傍線]の力から、説明しようとして居る。支那側の材料は別として、いざなぎの命[#「いざなぎの命」に傍線]の話が、桃に対する信仰の起原の説明にはなつて居ない。寧、当時すでに、桃のさうした偉力が認められてゐたので、其為に出来た説明神話と言ふべきものであらう。何故ならば、偶然取つて投げた木の実が、災ひを遠ざけたといふ話は、故意に、其偉力を利用してゐるからであり、魔物を却けようとする民俗と、幾足も隔つてはゐないからである。尠くとも、古事記・日本紀の原になつてゐる伝説の纏まつた時代、晩くとも奈良の都より百年二百年以前に、既に行はれてゐた民俗の起原を見せて居るに過ぎない。
何故こんな風習があるのか訣らぬ処から、此話は出来たのである。さすれば、其風習は、何時頃、何処で生れたものであらうか。国産か、舶来か。此が問題なのである。書物ばかりに信頼することの出来る人は、支那にかうした習慣が古くからある処から、支那の知識が古く書物をとほして伝はつたもの、と説明
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