やと……たまぼこの道来る人の亭《タ》ちとまりいかにと問はゞ答へやるたつきを知らにさにつらふ君が名言はゞ色に出でて人知りぬべみ あしびきの山より出づる月待つと人には言ひて君[#「君」に傍線]待つ吾を
  反歌(略する)
[#ここで字下げ終わり]
[#地から7字上げ](巻十三)
此ふたつの歌の前後は、定めにくいし、暗合と見られぬこともない。巻十二の性質上、後の長歌に対して、やゝ後世に記録せられた、と考へてもよさゝうである上に、巻十三の長歌は、進歩した、叙事脈の抒情詩である。おそらく、ある演劇としての出発点をもつた、おなじ巻の多くの組み歌――反歌を具へた長歌――とおなじ部類にはいるはずの、民謡出の采風歌だらう、と思うてゐる。大体から見て、長歌の末が独立するわけがあつて、一種の短歌となつたものと見るのが、正しいであらう。
民謡――職業伶人の謡うたものをもこめて――から出たものとすれば、説明は簡単である。流離の音楽者に謡はれた叙事詩が残していつたかたみは、最、ものゝあはれ[#「ものゝあはれ」に傍点]を思ひ知らせる部分であつたらう。
粗野な村々の祖先の心は、はじめて、芸術の齎す効果に近いものを受け
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