のとは違うて、とにかく、内部からする発想上の弾力であるから、よい傾向であつた。
[#ここから2字下げ]
木の葉散る山|偏付《カタツ》きの笹の庵は、埋れぬべきふし処かな(待賢門院堀川)
[#ここで字下げ終わり]
かうした発想法は、短歌の細みを土台にして、女流好みの情趣を語句から引き出して、一首に光被したものである。頼政や西行などのにも、かうした実生活が、だしぬけに顔を出して、調和を破ることがある。
[#ここから2字下げ]
誰も皆、今日のみゆきに誘はれて、きえにし跡をとふ人もなし(堀川)
[#ここで字下げ終わり]
此歌の「誰も皆」は、実生活から来た口語式発想に近いものである。好忠・俊頼の新傾向や、僧家の歌や、連歌などから養成せられた現代語趣味は、平安朝末の抒情歌、主としては「述懐」風のものに用ゐられたが、其も一時のはやりで、仏徒の外には用ゐなくなつて了うた。
[#ここから2字下げ]
これ聞けや。花見る我を 見る人の、まだありけりと驚かすなり(頼政)
[#ここで字下げ終わり]
連歌趣味が露骨に出てゐるが、実生活の響きがほのかに聞える。頼政以後、西行・秀能などの武士階級の歌人が、見出しに預る様
前へ
次へ
全63ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング