力を思はせる強さである。前の歌になると、細みが展開せられて来てゐる。楢の木は作者の誤解かも知れぬが、広葉と言うた処から見れば、木立ちを見渡したのでなく、一本の木の局部に目を注いでゐるのである。私はかうしたものが、尚あつたのであらうと思ふ。此歌の如きも経信集にはなくて、千載集にのみ見えてゐるのから見ても、此想像の余地はある。一体、経信には、新しい趣向の歌が多くて、其が本領と思はれたらしい。
[#ここから2字下げ]
山守りよ。斧の音高く聞ゆなり。峰のもみぢは、よきてきらせよ(金葉)
深山ぢにけさや出でつる。旅人の笠白たへに雪つもりつゝ(新古今)
(家集……ぢを……雪はふりつゝ)
夕日さす、浅茅が原の旅人は、あはれ、いづくに宿をかるらむ(新古今)
早苗とる山田の筧《かけひ》もりにけり。ひく標《シ》め縄に 露ぞこぼるゝ(新古今)
大井川 いはなみ高し。筏士《いかだし》よ。岸の紅葉に あからめなせそ(金葉)
[#ここで字下げ終わり]
此中、一と五は、平安末の趣向歌の先駆で、古今のものとは別途ではあるが、正しい道ではない。第三の歌も追随者の多かつた型であるが、まだ趣きは失はない。併し「あはれ」が、
前へ
次へ
全63ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング