、新語を以て其を救はうとする試みが、歴史的にくり返されてゐる。其次には、珍らしい材料――寧《むしろ》、名詞――を局部的にとりこむ事が行はれてゐる。此が「歌枕」と称せられるものだが、歌の全内容となる題材としてゞなく、修辞上の刺戟の為ばかりに使はれた様である。
かう言ふ処へ、平安京に於ける広い意味の芸術の天才らしい人が出て来た。桂大納言源経信である。彼は当時の文学芸術のすべてに達したと言はれた人である。殊に琵琶では、桂の一流を開いた人であつた。「君子器ならず」と言ふが、天才の直観力も、才能の専門的固定を救ふものである。今存する彼の作物は、あまりに尠い。此から彼の才分をきめるのは気の毒な気もする。が、偶然を考へることの出来ない個性の透徹した作品がある。
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朝戸あけて 見るぞさびしき。傍丘《カタヲカ》の 楢の広葉に ふれる白雪(千載)
ひた延《ハ》へて守《モ》る標《シ》め縄の たわむまで、秋風ぞ吹く。小山田の庵(続古今)
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後のは桂の里での作であるが、四五句の続きのあやふさが、其写生に徹して居ない事を見せて居る。唯《ただ》二三句の緊張は、観照の把持
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