柔軟性を失はせる反語の圧迫を感じさせる。下の句の自由な拘泥のない「わが身一つはもとの身にして」の調子が安易に浮いて聞える。恋人の上を言はないで、我が身を言ふのも、上の句の形式上の曲節が過重して居らなければよかつたらう。が此場合、下の句の内容の上の曲節が堪へられなくなつてゐる。さういふ処へ、又此反転法に行き遭ふ為、論理の遊戯を厭《いと》はしくさへ感じる。姿は自在の様であり、発想は曲節を尽して居る様だけれども、業平の特色とせられてゐる余韻が、形式は固《もと》より内容の上にもなくなつてゐる。「心剰りて、詞足らず」と古今集序の貫之の評語は、実は「詞剰りて、匂ひ足らず」とでも言ひ替へねばなるまい。
彼に、若し、自然に対する理会があつたとしたら、情景の絡みあひから生じる趣きは、姿のしな[#「しな」に傍線]と相俟つて、真の象徴発想を闢《ひら》いたであらうに、黒人から赤人に、赤人から家持に伝《つたは》つた調子の「細み」と、幽《かそ》かでそして和らぎを覚える「趣き」は、彼にも完成せられず、壬生[#(ノ)]忠岑になつて、稍其に近よつたものが出て来たゞけであつた。偶発的に時々「趣き」を出した者があつても、さ
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