で、たゞそれが、今日ほど甚しくはなくて、幾分互ひに譲歩しあふ事があつたといふばかりで、今の人の考へるやうに、口語その儘を筆録したのが、直に文語とならない事は、今日の口語文を見ても知れるであらう。二葉亭や美妙斎の大胆な試みに過ぎなかつた時代から見れば、今日の口語文は、確に一種の形式を備へたものになつて来てゐる。多くの人は、です[#「です」に傍点]、だ[#「だ」に傍点]を会話語として、文章語としてはである[#「である」に傍点]を使うてゐる。よく/\、修辞上の必要のある場合の外は、のつけに[#「のつけに」に傍点]とは言はないで、最初に[#「最初に」に傍点]といふ。かうして現代語の中にも、幾分、硬化しかけてゐる正確な語を、文章語にむけてゐるのである。
これまでの研究でも時間の助動詞つ[#「つ」に傍点]・き[#「き」に傍点]はぬ[#「ぬ」に傍点]・けり[#「けり」に傍点]と較べて、会話的要素の多いものとせられてゐる。俊頼などが口語を取り容れてゐる、というたところで、名詞に止つてゐるので、一つの短歌の全体の発想には、大した影響を持つてゐないものである。西行あたりになると、まゝ、会話語と文章語との判
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