るほど、ある地方のふし・踊り・狂言が、抜け駈けの進歩をする。
首里宮廷で、巫女の神遊を定期にくり返すのは、極めて古い事である。だが、男神なる若衆の仮装群行が、王宮に練り入つて、雑技を演ずる風も、古くから盂蘭盆に接する、満月の夜には行はれてゐた。尠くとも、尚王家中山国建設以前からあつた、民間伝承に違ひない。此は、盆祭りと習合せられた形で、其前は、満月の夜を、三秋の中に択んだのであらう。宮廷の仲秋宴・重陽宴なども、盆の練道《レンダウ》に似て、而も齢高い聖者の登場を、第一としてゐる。
かうして見ると、元からあつた村をどりの、念仏踊りに惹き込まれて行つた形が窺はれる。同時に、村踊りの、組踊りとなつた径路の見当もつく訣だ。狂言は、村の下世話の写実だから、其まゝ移して、宮廷には演じなかつたらう。それには、散文の口語を以て唱和するものを、正楽と認める事が、出来なかつた為もあらう。
律語脈の古語で、科白を綴つた、狂言の高踏的になつたものが、現れて来ねばならぬ。即、由来記・家譜等に残る誇るべき地方伝説に、人情味を加へた物が、出来た訣である。而も、神遊《シンイウ》から出た芸能である為に、顔面表情は固より、
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