組踊り以前
折口信夫

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)地方《ムラ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぷらん[#「ぷらん」に傍線]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うか/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

     一

親友としての感情が、どうかすれば、先輩といふ敬意を凌ぎがちになつてゐる程睦しい、私の友伊波さんの「組み踊り」の研究に、口状役を勤めろ、勤めようと約束してから、やがて、足かけ三年になる。其間に、大分書き貯めた原稿すら、行き方知れずなる位、長い時の空費と、事の繁さが続いた。今日になつて、書きはじめる為のぷらん[#「ぷらん」に傍線]を立てゝ見ると、何もかも、他人の説でも受けつぐ様な気分がするばかり、興味の鈍つて了うてゐるのに気がついた。こんな無感興・認識未熟の文章が、友の本の情熱に水をさしはすまいか、と案じながら、ほんのぷらん[#「ぷらん」に傍線]を詞に綴つたと言ふだけの、組踊り成立案を書いて見る。さうせねば時間のない位、もう板行の時が迫つてゐるのを知り乍ら、
次へ
全29ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング