。だから、地上は天上になる。天子様は、天上の神となる。かうして、時も、人も、所も、詞も、皆元へかへる。不思議な事に、天上にある土地の名が、其々地上にもある。天の安河原は、天上の土地の名であるが、近江の国にもある。天上に高市《タケチ》があるかと思へば、倭にも高市郡がある。天上から降つて来た土地だなどいふ伝説も、かうした信仰から出たのである。
天子様は、申すまでもなく、倭の神主であらせられて、神事が多い故に、常に御物忌みをせられなければならぬ。殆ど一年中祭りをして居らせられねばならぬ。此は、信濃の国の諏訪の神主に見ても知れる様に、年中祭りに忙殺されて居る。天子様は、日本中の神事の総元締めで、中々やりきれない。そこで、日本には中臣といふ御言詔持《ミコトモチ》が出来た。此中臣は、天子様と群臣との中間に居て、天子様の御言葉を、群臣に伝達する職のものである。
それから、天子様と、神との中間に在るものを、中天皇《ナカツスメラミコト》といふ。万葉集には、中皇命と出してある。此中皇命の役に立つものは、多くは、皇女或は后などである。
中臣は主として、天子様の御言葉を伝達するのが、為事であつた。元来なら、天
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