すめみまの」に傍線]命の御身体に、天子霊が完全に這入つてから、群臣が寿言を申すのだ。寿言を申すのは即、魂を天子様に献上する意味である。群臣等は、自分の魂の根源を、天子様に差し上げて了ふのだ。此程、完全無欠な服従の誓ひは、日本には無い。寿言を申し上げると、其語について、魂は天子様の御身に附くのである。
天子様は倭を治めるには、倭の魂を御身体に、お附けにならなければならない。譬へば、にぎはやひの[#「にぎはやひの」に傍線]命が、ながすね[#「ながすね」に傍線]彦の方に居た間は、神武天皇は戦にお負けなされた。処が、此にぎはやひの[#「にぎはやひの」に傍線]命が、ながすね[#「ながすね」に傍線]彦を放れて、神武天皇についたので、長髓彦はけもなく[#「けもなく」に傍点]負けた。此話の中のにぎはやひの[#「にぎはやひの」に傍線]命は、即、倭の魂である。此魂を身に附けたものが、倭を治める資格を得た事になる。
此大和の魂を取扱つたのは、物部氏である。もの[#「もの」に傍線]とは、魂といふ事で、平安朝になると、幽霊だの鬼だのとされて居る。万葉集には、鬼の字を、もの[#「もの」に傍線]といふ語にあてゝ居る
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