来たのが、愛人が来るやうに考へられて来たのだ。ところが、この新嘗に似た行事が、まだ他にもある。其は神嘗祭である。そこで、神嘗祭の話に移る。

     四

神嘗祭・神今食・相嘗祭、此三つは新嘗祭に似て居る。だから、まづ神嘗祭から話を進めて見る。これは、新嘗祭と相対して行はれた祭りであつて、九月に行はれる。伊勢の神宮に早稲《ワセ》の走穂《ハツホ》を奉る祭りであると考へられて居る。天子様の新嘗に先立つて行はれる。此より前の六月と十二月とにも同様な行事が行はれる。神今食といふのが其である。此神今食を、或人々は「かむいまけ」と読んで、新米を奉るのだとして居るが、十二月の方はともかくも、六月には、まだどの様にしても、新米は出来ないから、此説は同意出来かねる。猶、神今食に奉るものは、早稲の初穂ではなくて、古米を奉るのであらう、と私は考へて居る。
だが、従来、神今食と、神嘗と、新嘗とは、区別が判然して居ない。私は、新米を奉るのと、古米を奉るのとの違ひであらう、と考へて居る。何故かと言ふと、神今食の直前に行はれるのに、月次祭がある。此は、六月と十二月とに行はれる。つまり、一年を二つに分けて、行うたの
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