て其を慕ふ事にもなり、ほんとうの愛情が表れる事にもなる。或は、吾々祖先の生活上の陰事《カクレゴト》、ひいては、古代の宮廷の陰事をも外へ出す様になるかも知れぬが、其が却つて、国の古さ・家の古さをしのぶ事になる。単なる末梢的な事で、憤慨する様な事のない様にして頂き度い。国家を愛し、宮廷を敬ふ熱情に於ては、私は人にまけぬつもりである。
二
まづ「にへまつり」の事から話して見る。「にへ」は、神又は天皇陛下の召し上り物、といふ事である。調理した食物の事をいふので、「いけにへ」とはちがふ。生贄《イケニヘ》とは、生《ナマ》のまゝで置いて、何時でも奉る事の出来る様に、生《イ》けてある贄の事である。動物、植物を通じていふ。
只今の神道家では、にへ[#「にへ」に傍線]といへば、生《ナマ》なものをも含めて言ふが、にへ[#「にへ」に傍線]といふ以上は、調理したものを言ふのである。御意の儘に、何時でも調理して差し上げます、といつて、お目にかけておくのが、生贄《イケニヘ》である。ほんとうは食べられる物を差し上げるのが、当り前である。生物《ナマモノ》を差し上げるのは、本式ではない。この贄の事から出発し
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