女共に定められる。女の方では、郡領の娘が造酒子《サカツコ》に定められる。造酒子《サカツコ》は、地位の高い巫女である。男の方は、稲実の君が定められる。此で、酒と米との役人が出来た訣である。――昔の考へでは、酒と米との間に、劃然とした区別はなかつた――それから、造酒子《サカツコ》の下には、酒波《さかなみ》が一人、篩粉《コフルヒ》が一人、共造《アヒツクリ》が二人、多明《ためつ》酒波が一人あるが、此等は皆、酒に関する巫女である。男子の方は、稲実の君の外に、灰焼一人、採薪四人が定められる。猶、歌女二十人、其他、いろ/\の役割りが定められる。然も、酒の事に仕へるのみかと思ふと、さうではない。山へ行つて、薪や御用の木を伐る時に、一番先に斧を入れたり、又野原へいつて、御用の茅を刈るのも、造酒子《サカツコ》の為事であつた。
此人々は、時期が来ると、稲を積んで都へ上り、土地を選んで、そこへ斎庭を作る。後世は大抵、北野につくられた。そして大嘗祭の前に、大嘗宮へ運んで来る。つまり、此等の人々は、稲の魂を守つて都へ上り、其で酒もこしらへ、御飯も焚きして、其を天子様の御身体に入れる、といふ信仰上の行事を行うた。
稲の魂は、神の考へが生ずる、一時代前の考へ方である。外来魂の考へである。此魂を身につけると、健康になり、農業に関する、すべての権力を得ることにもなる。大嘗祭の中へ、稲穂を入れる時には、警蹕の声をかける。警蹕は、神又は天子様の時でないと、かけない。そして、警蹕のかけ方で、何処の国、何処の誰といふ事が訣つた位である。
警蹕の意味は「尊い神が来た。悪い者よ。そこをどけ」といふ事である。此で見ても、稲穂が大切な尊いものであつた事が知れる。此稲魂の事をば、うかのみたま[#「うかのみたま」に傍線]といふ。うか[#「うか」に傍線]はうけ[#「うけ」に傍線]で、召食《メシアガリ》ものといふ事で、酒の方に近い語である。
悠紀・主基の二个国は、何時頃から定められたか訣らぬが、近代は、亀卜で定められる。昔は、何かの方法があつたのであらう。延喜式で見ても、御幣について上る国を以て、其とする様だ。これを国郡卜定と言うて居る。だが、悠紀・主基の国といふのは、大抵、朝廷の近くの国である。そして、東は悠紀・西は主基とされる。御殿もやはり、此様にこしらへる。つまり、大倭朝廷を中心として、其進路の前後を示したのであらう。
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