家・我が身の威霊が、米と共に、相手に移るのを予期してするのであつた。だから、神嘗祭りは、神宮と天子との間を親しくする為であつた。両宮の主神と、人にして神なる斎宮とが、共食せられるのだから、神新嘗の義を以て、神嘗と言うた。陵墓への荷前使も、生きてゐられる尊親に朝覲行幸の礼を致されるのとおなじ意味の誓ひであつた。
かうした神嘗祭りの為の荷前を貢ぐ地方々々では、村・国の神に対しても、中央と等しく初穂を進める風を起し、或は盛んにせずには置かなかつたであらう。だから神の為の新嘗であつたものが、二つに分れて、神ばかりのする新嘗、一族の長で神主たる主人の新穀を喰ひはじめの、神も臨席する新嘗と二通りが出来て、片方又両方共に行ふ風が出来たらしい。
だから、上代の地方の早稲祭りは、わりあひ不自然に発生してゐると言へるやうだ。併し、其風が段々盛んになつて、前者は正式な神社を基礎とした信仰、冬の新嘗なる後者は一家の旧習、と言ふ風に見做されたらしい。神社が神道の中心となるに連れて、秋祭りは、農村の大行事となつて行つた。
九月は斎月《イミヅキ》として、一月・五月同様虔しまねばならぬ月であつた。道教の影響もあらうが
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