主と見てゐた伝承が多い。海の神が、元、海の彼方の常世《トコヨ》の国の神であつた事は、既に、他に述べた事がある。
水を司る方面ばかりから見た海の神は分化して、曠野・山間に村を構へると、川・井・淵などに住む動物の様に思はれて来る。全体としての常世の国のまれびと[#「まれびと」に傍線]は、天から来る神となり、或は忘られて了ふ。中には、山の神と一つになつて了うても居る。山の神は、土地の精霊の代表であつた。まれびと[#「まれびと」に傍線]の咒詞によつて、圧服を強ひられるのは、常に山の神であつた。常世神の代理者として、又地霊の代表者として、表現の入りまじつた咒詞を奏して、同輩の地霊を服せしめようとする様にもなつた。常世から神の来る事の考へられなくなつた時代・地方には、山の神が、まれびと[#「まれびと」に傍線]に似た職掌を持つ様にもなつて行つた。
勿論、此も山の神に扮した村の神人である。宮廷の新室|寿《ホ》きなる大殿祭《オホトノホカヒ》・鎮魂祭・新嘗祭などに来る異装人、又は、京都辺の大社、平野・松尾などの祭りに参加する山人なども、一つ者であつて、山の神人だ。平安時代の者は、官人或は刀禰たちの仮装に過
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