傍線]など言うたのである。
其夜は神が一宿して行く。其日家に残つて、幾日来「をとめの生活」に虔んでゐる家の女――主婦である事も、処女である事もあつたであらう――の給仕を受け、添寝をして行つたものと思はれる。此が、一夜夫婦《ヒトヨヅマ》といふ語の正確な用例である。又地方によつては、家の長上なる男があるじ役[#「あるじ役」に傍線]を勤める処も多かつたらしい。又、まれびと[#「まれびと」に傍線]も、大勢の伴神を連れて来る事もあつた。其等の神たちが、座を組んで、酒の廻るに従うて、順番に芸能を演ずる事もあつた。
此日神を請ずる家が「新室《ニヒムロ》」と称へられた。昔から実際新しい建て物を作るのだと考へられて来てゐる。だが、来臨したまれびと[#「まれびと」に傍線]の宣《ノ》り出す咒詞の威力は、旧室《フルムロ》を一挙に若室《ワカムロ》・新殿《ニヒドノ》に変じて了ふのであつた。尠くとも、さう信じてゐた。
大和宮廷などでは、早くから其まれびと[#「まれびと」に傍線]が、神に仮装した村の男神人だと言ふ事を知つてゐた。家々のにひなめ[#「にひなめ」に傍線]には、自分の家より格の上な人をまれびと[#「まれびと
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