大部分に亘つて沿革が見えるのである。寡婦で貢女の役を勤めて居た為、采女としての浄さの保たれなかつた事が、問題の中心になつたと考へてよさゝうである。
日本小説の源流は、黒川真頼にも注意せられて、浦島子伝・柘枝《ツミノエ》伝が挙げられた。友人武田祐吉も、この点に注意してゐる。併し、単なる創作として考へられて居る(上代国文学の研究)のはどうだらう。もつと誇らかな心を持つて、支那の小説と似たものを、固有と考へた民譚と言ふよりは叙事詩の中に見出して、此を漢文に訳したのである。技巧の不十分な為内容以上に文飾の勝つたものばかりが出来たに違ひないが、其一部分が残つた外は、名だけ留つたものゝ外に、まだ若干の叙事詩・民譚の記録のあつたことを、想像することが出来る。
近世の意味ではない小説が、日本人の手で散文に書き取られ、神仙秘伝其儘の、神女の誘ひに従うて、恋の楽土に遊んだ話は、数多あつた。丹後の地にあつた浦島子の叙事詩、吉野川を中心に固定した柘《ツミ》の枝《エ》に化生して漁師を誘うた吉志美《キシミ》ヶ嶽の神女の外にも、駢儷体の文章に飜《ウツ》されたらうが、男神が人間の女に通ふ型のとりわけ我国に多い言語伝承
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