に変態で、切実なものを要求した為に、ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の謡ふ「物語」のくづれが、自然に変化して、創作気分の満ちたものを生み出すことになつたのである。だが、其変化は自然であつたらうと言ふことは忘れてはならぬ。特殊な事情は、固有名詞やほんの僅かばかり文句を変更する位のことであつたであらう。ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]自身すら古物語の改作とは心づかずに事情のあうて行くまゝに、段々謡ひ矯《タ》め、口拍子に乗せ易《か》へて行つたに違ひない。
石上《イソノカミ》乙麻呂は、奈良の盛りの天平十一年の春、久米[#(ノ)]若売《ワクメ》と狎れて、女は下総に配せられると同時に、土佐の国に流された。若売は恐らく貢女として、地方出の采女と異名同実の役をして居たものと思はれる。采女の制度のまだ厳重な時代であつたから、故左大臣の子として、役こそはまだ低かつたが、人の思はくの重々しい位置にあつたに拘らず、政綱粛正の為か、藤原氏の一流人物の急死から、他氏を恐れた政略かの犠牲として、辺土に遣られたものと思はれる。とにかく世人の目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つたことは察せら
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