。万葉集編纂の時にも既に、十五巻の二部の相違に心づかずに一括して出したのであらう。成立の動機は全然違うてゐることである。

     四

こゝにお恥しい想像をつけ添へて、そつと心切な後人のもりたてを待つことにする。わが国のほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]にも、創作詩人の偉大な者が現れた事はないであらうか。伝統の職業として「ほかひ」し「物語」る詩に整へられた内界を持つて、日本の歌の歴史に、創作詩の時代をわりあひに早く招きよせた天才があつたのではなからうか。死霊に聞かせるよごと[#「よごと」に傍線]とも言ふべきしぬびごと[#「しぬびごと」に傍線]=誄――語《ことば》だけは遅れて出来たもので、古くはやはりよごと[#「よごと」に傍線]と言うたであらう――の為事を奪ふばかりに、後の所謂竹林楽なる挽歌が進んで来たのは、死霊を慰めた遊部《アソビベ》の歌舞と、ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の進んだ詞句との交渉があつたであらう。遊部は舞を専《もつぱら》にし、ほかひ[#「ほかひ」に傍線]が竹林楽の詞曲を作成する時が来た。其が、宮廷詩人の初まりである。喪事から段々離れ、醇化して宴席の曲その他を作
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