。又、うぢ/\顔もえ挙げないで、「覚後禅」の梗概に耳傾けた自分を思ひ出さずには居られません。
かうした先輩を持つた私の読書欲が、ませ[#「ませ」に傍点]ない訳はありません。乱読の傾向は、益々激しくなつて行くばかりでした。併し此が後々、王朝以前の書物以外を顧る事の出来なくなつてからの私に、どれだけ役に立つてくれてゐるか訣らないのです。
中学二年の時に父をいたぶつて大判の言海を買うて貰うて戻つた車の上の、ゑましい気分が思ひ出されます。その後一年目に河内へ嫁入つて居た姉の藪入りの時に、万葉集略解の四六判の洋本をゆすり得た時の気分も、まだあり/\と残つてゐます。
其後私の生活気分の底に万葉読みから浸み出たものが、ちび/\こびりついて来たのではないかと思ひます。
        ○
而も飽くまで幸福であつた私は、此等の乱読を整理する根本原理の様なものを、とり込む事が出来てゐました。其は、中学三年頃に死に別れた友人が、高等小学時代に私の何の本かと交換してくれた落合、小中村両氏の新撰日本外史並びに、四季に配当した表題の少年日本歴史とでも言ひましたか、雅文体の物から出てゐる様であります。だから、私は段
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