げる脚、折り立てた膝も、すべて白飛白が身に叶ふ如くさつぱりと、皮帯のきりゝとした如く凜として居る。よい家・よい村・よい社会を思はせる純良な、少年の身のこなし、潤んだ目に、まづ島人の感情と礼譲とを測定した事であつた。
私の空想が、とんでもない方へ行つてゐる間に、此若者の姿が見えなくなつた。艙※[#「片+總のつくり」、第3水準1−87−68]《ふなまど》の下から、両方へ漕ぎ別れて行つた二艘の一つに、黒瞳の子は薬瓶のはんけちの包みをさげて、立つてゐる。瀬戸の岸へ帰るのだ。此島にゐる間に、復此壱岐びとの内界を代表した目の主に、行き会ふこともあるだらうか。幾年にもない若々しい詩人見たいな感情をおこして居ると、旅の心がしめつぽくなつて来る。そんなことはよしにして、まあ初めて目に入る、島国の土地の印象を、十分にとり込まう。

     二

裏から見た港の町の寂しい屋並みの上に、夏枯れ色の高い岡が、かぶさりかゝつてゐる。艮《ウシトラ》が受けた山陰《ヤマカゲ》の海村には、稍おんもりと陰《カゲ》りがさして来た。まだ暗くなる時間ではないがと※[#「くさかんむり/(さんずい+位)」、第3水準1−91−13]
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