ある。そして、婦人たちからは、衣類を淡島様に奉納させたのであつた。
其|由緒《ユカリ》はかうである。昔住吉明神の后にあはしま[#「あはしま」に傍線]といふお方があつて、其が白血《シラチ》・長血《ナガチ》の病気におなりになつた。それで住吉明神が其をお嫌ひになり、住吉の社の門扉にのせて、海に流したのである。かうして、其板船は紀州の加太の淡島に漂ひついた。其を里人が祀つたのが、加太の淡島明神だといふのである。此方は、自分が婦人病から不為合せな目を見られたので、不運な人々の為に悲願を立てられ、婦人の病気は此神に願をかければよい、といふ事になつてゐるのである。処々に、淡島の本山らしいものが残つてゐるが、加太の方がもとであらうと思ふ。
東京の近くで物色すると、三浦半島の淡島があり、中国では出雲の粟島、九州に入ると平戸の粟島などが有名である。凡そ、祭神は、すくなひこなの命[#「すくなひこなの命」に傍線]といふ事になつてゐる。特に、出雲のは、此すくなひこな[#「すくなひこな」に傍線]が粟幹に弾かれて渡られたのだ、といふのである。すくなひこな[#「すくなひこな」に傍線]は其程小さい神様なのである。国学者
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