述べて来ると、ひらりと私の頭をよぎるものがある。此には何らの関係もないことかも知れぬ。或は、切り離せないものであるかも訣らない。ともかく、おもしろい類似を持つてゐるのは、奥州地方から北海道にかけて行はれてゐる、養蚕・狩猟の神と考へられて来たおしら様[#「おしら様」に傍線]といふ、人形式の御神体のあることである。
おしら様[#「おしら様」に傍線]には馬などの動物の頭のもあるが、大体に於て、男女一対のものが多い様である。而も、しら[#「しら」に傍線]・ひな[#「ひな」に傍線]は音韻の関係が、頗、密接であるから、万更、没交渉のものと思はれぬ。
さすれば、ひな[#「ひな」に傍線]は男神・女神の揃つたもので、祓除の形代《カタシロ》以前からあつたものと思うてもよからう。それが三月三日に祭日を定めることになつたのは、大宮之※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]祭りと同様此偶神を対象として、この日の儀礼を行うた家々の民間祭祀から、出てゐるものではなからうか。
さうとすれば、其処に、淡島風の形代信仰と一致融合すべき点が出来てくる訣である。尤、淡島様の配流は、撫で物[#「撫で物」に傍線]の水に捨てられる形が、人格化せられて、事実の如く考へられて来たものであらうかと思ふ。
茲に、一つ断つておきたいことがある。崇神天皇の巻に見えた、山城のひら坂[#「ひら坂」に傍線]の上で、腰裳の少女が童謡《ワザウタ》を歌ふ、あの句の中に「ひめなすびすも」と出てくることである。「姫の遊びすることよ」の意で、雛人形を玩ぶ後世の雛祭りの古い形だといふ様な考へは、撫で物[#「撫で物」に傍線]にせおはせて海上遠く放ちやつてよからうではないか。
底本:「折口信夫全集 3」中央公論社
1995(平成7)年4月10日初版発行
底本の親本:「古代研究 民俗学篇第二」大岡山書店
1930(昭和5)年6月20日発行
初出:「愛国婦人 第四七九号」
1922(大正11)年3月
※底本の題名の下に書かれている「大正十一年三月「愛国婦人」第四七九号」はファイル末の「初出」欄に移しました。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年1月28日作成
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