きん[#「ひようきん」に傍点]な趣きを見せてゐたものに、大宮之※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]《オホミヤノメ》祭りがある。東国風を多量に取り込んで、其儀礼は野趣横溢、文字通りなものであつた。此には名高い大宮之※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]祭りの祭文があつて、其が誦まれる対象は、宮中の八神殿といふよりも、寧、其折臨時に拵へる竹の柄につけられた華蓋《キヌガサ》、其に結び下げた男女三対、並びに一人の従者の人形にあつたらしい。つまり、其が祀られたらしいのである。此が宮中では、古くひゝな[#「ひゝな」に傍線]といはれてゐた様である。
大宮之※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]祭りとは十二月の初午の日に行はれたもので、後世の二月の初午の稲荷《イナリ》祭りの源流だ、と考へられてゐる。此祭りの目的には、悪事災難を除却するといふ意味はあつたのであるが、其ひゝな[#「ひゝな」に傍線]たちを必しも、撫で物[#「撫で物」に傍線]其他の如く、人間の穢れを脊負つて往つてくれるものとも決められない。通常は此を以て、大宮之※[#「口+羊」、第3水準1−15−1]以下の神々の象徴と見てゐたらしいのである。
ひゝな[#「ひゝな」に傍線]といふ言葉は、古く長音符の用法を発明しなかつた時代に、長音を表すのに同音を重ねたものであらう。鶯《ウグヒス》をほゝき鳥[#「ほゝき鳥」に傍線]、帚《ハウキ》をはゝき[#「はゝき」に傍線]、蕗をふゝき[#「ふゝき」に傍線]など言ふ風に表すことが多かつた。此ひゝな[#「ひゝな」に傍線]も其一例である。であるから、ひゝな[#「ひゝな」に傍線]が約まつて、ひな[#「ひな」に傍線]になつたといふ様なことは、万が一にもないことで、ひな[#「ひな」に傍線]を長音化して用ゐることが多かつた為でなければならぬ。
想像すれば、ひな[#「ひな」に傍線]は一対のものといふ程の意味を持つてゐたらしく考へられるが、暫く其危険を避けても、鳥の雛の如く可憐なもの、又は形代の意味の人間のひながた[#「ひながた」に傍線]といふ様な語から、出たものでないことは明言出来る。
前にもいつた「女神」があるからには「男神」もあつたのであらう。其を合せて、ひゝな神[#「ひゝな神」に傍線]と言うたことも、略推定出来るのである。
三 奥州のおしらさま[#「おしらさま」に傍線]
此処まで
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング