だが、其詞は、神賀詞とは別の物で、あぢすき神[#「あぢすき神」に傍線]と禊ぎとの関係を説く呪詞だつたのである。其詞章が、断篇式に神賀詞にも這入つて行つて、みぬま[#「みぬま」に傍線]及び関係深い白鳥の生き御調がわり込んで来たものであるらしい。
水沼間・水沼・弥努波(又は、婆)と三様に、出雲文献に出てゐるから、「水汲」と訂すのは考へ物である。後世の考へから直されねばならぬ程、風土記の「水沼」は、不思議な感じを持つてゐるのだ。人間に似たものゝ様に伝へられて居たのだ。此風土記の上《たてまつ》られた天平五年には、其信仰伝承が衰微して居たのであらう。だから儀式の現状を説く古の口述が、或は禊ぎの為の水たまり[#「水たまり」に傍点]を聯想するまでになつてゐたのかも知れぬ。勿論みぬま[#「みぬま」に傍線]なる者の現れる事実などは、伝説化して了うて居たであらう。三津郷の名の由来でも、「三津」にみつま[#「みつま」に傍線]の「みつ」を含み、或は三沢(後藤さん説)にみぬ[#「みぬ」に傍線](沢をぬ[#「ぬ」に傍線]・ぬま[#「ぬま」に傍線]と訓じたと見て)の義があつたものと見る方がよいかも知れない。でないと
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