超越する原理が備っていた。呪詞の、太初《ハジメ》に還す威力の信念である。このことは藤原の条にも触れておいた。天香具山《あめのかぐやま》は、すくなくとも、地上に二か所は考えられていた。比沼の真名井は、天上のものと同視したらしく、天《アメ》[#(ノ)]狭田《サダ》・長田は、地上にも移されていた。大和の高市は天の高市、近江の野洲《やす》川は天の安河と関係あるに違いない。天の二上《ふたかみ》は、地上到る処に、二上山を分布(これは逆に天に上《のぼ》したものと見てもよい)した。こうした因明《いんみょう》以前の感情の論理は、後世までも時代・地理錯誤の痕を残した。
湯河板挙《ユカハダナ》の精霊の人格化らしい人名に、天[#(ノ)]湯河板挙があって、鵠《くぐい》を逐《お》いながら、御禊ぎの水門《ミナト》を多く発見したと言うている。地上の斎河《ユカハ》を神聖視して、天上の所在と考えることもできたからである。こうした習慣から、神聖観を表すために「天《アメ》」を冠らせるようにもなった。
一三 筬もつ女
地上の斎河《ユカハ》に、天上の幻を浮べることができるのだから、天漢に当る天の安河・天の河も、
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