地名を、今では弟《オト》国と言うとあるいはながひめ[#「いはながひめ」に傍線]式の伝えになっている。
 思うに、悪女の呪いのこの伝えにもあったのが、落ちたものであろう。ほむちわけのみこ[#「ほむちわけのみこ」に傍線]のもの言わぬ因縁を説いたのが、古事記では、すでに、出雲大神の祟りと変っている。出雲と唖王子とを結びつけた理由は、ほかにある。紀の自堕輿而死の文面は「自ら堕《オチイ》り、興《コトアゲ》して死す」と見るべきで、輿は興の誤りと見た方がよさそうだ。「おつ」・「おちいる」という語の一つの用語例に、水に落ちこんで溺れる義があったのだろう。自殺の方法のうち、身投げの本縁を言う物語を含んだものである。水の中で死ぬることのはじめをひらいた丹波道主貴の神女は、水の女であったからと考えたのである。

     九 兄媛弟媛

 やをとめ[#「やをとめ」に傍線]を説かぬ記・紀にも、二人以上の多人数を承認している。神女の人数を、七《ナヽ》処女・八《ヤ》処女・九《コヽノ》の処女などと勘定している。これは、多数を凡《おおよ》そ示す数詞が変化していったためである。それとともに実数の上に固定を来《きた》した
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