もうている。丹波の道主[#(ノ)]貴《ムチ》が言うのに、ひぬま[#「ひぬま」に傍線](氷沼)の……というふうの修飾を置くからと見ると、ひぬま[#「ひぬま」に傍線]の地名は、古くあったのである。このひぬま[#「ひぬま」に傍線]も、みぬま[#「みぬま」に傍線]の一統なのであった。
 第一章に言うたようなことが、この語についても、遠い後代まで行われたらしい。「烏羽玉《うばたま》のわが黒髪は白川の、みつはくむ[#「みつはくむ」に傍線]まで老いにけるかな」(大和物語)という檜垣《ひがき》[#(ノ)]嫗《おうな》の歌物語も、瑞歯含《ミヅハク》むだけはわかっても、水は[#「は」に白丸傍点]汲むの方が「老いにけるかな」にしっくりせぬ。これはみつはの女神[#「みつはの女神」に傍線]の蘇生の水に関聯した修辞が、平安に持ち越してわからなくなったのを、習慣的に使うたまでだろうと説きたい。この歌などの類型の古いものは、もっとみつは[#「みつは」に傍線]の水を汲む為事が、はっきり詠まれていたであろう。とにかく、老年変若を希《ねが》う歌には「みつは……」と言い、瑞歯に聯想し、水にかけて言う習慣もあったことも考えねば
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