翁夫婦が、羽衣を隠し、其を悲しんでゐる娘を自分の家へつれて来て養つた。酒を造らせればうまく造るし、機物も巧に織る。所が女の力で家が富んで、必要がなくなると天女を追ひ出してしまふのです。それで天女は怒つて、家を出て道を歩いて奈具といふ所に行つた時に、「わが心なぐしくなりぬ」といつたのが、奈具の社の名の由来だといふことになつてをります。名高い話ですが、この話も、その天女が転生して、とようかのめの[#「とようかのめの」に傍点]神になつたと伝へてゐる。豊宇賀能売神といふのは外宮の神様と、非常に性格の通つた所のある神です。つまり、神名が似てゐるのは、神の性質が近似してゐるのだし、それと同時に名前が一寸違つてゐても性格の上に細かな相違のあることを示してゐるのだ。酒の神です。これには間に飛躍がありまして、天女が死んで、それが神になつたといふ訣なんです。それを、死んだといふ手順だけ外してしまつたのか、強ひて忘却を装うたのか、さういふ風な形で伝へてゐるわけです。かぐや姫の話も偶然、竹取の翁といふ者が正直で、いゝ心を持つた人ですから、あんなに幸福に天に昇つて行きましたけれど、さうでなかつたら同じ運命に落入
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