ければならないことかも知れない。昔神の世からかういふことをしてをつたから、我々の時代にも、さうしたことを行はうといふことになつて、初めた儀礼がないとも言はれません。
万葉集を見ますと、女の人の旅のことも沢山出て来たり、人の中に入つて旅をするといふこともあるし、一人旅をする女のこともあります。ともかくいろ/\な旅があります。それをあなた方の考へる旅とはお認めにならないかも知れませんが、女の人が家出をする話……。昔の女の旅には目的が考へられない。万葉時代の女の人の旅には目的がそんな風にはつきりきまつてはゐない。きまつてゐないと言ふと悪いのでせう。目的は恐らく死ぬるための旅でせう。家を出て行くといふことは、亡命です。女の亡命は、其女性の死を意味するものです。死ぬるための旅と言つていゝでせう。古代女性が家をさすらひ出るといふやうな種類の物語、歌を中心とした物語が相当見えてをります。場合によると、その当事者の作つた歌、死なれた後に残つた男達が作つた歌、そんな風な形で残つてをります。或はさういふ語り伝へがあつて、昔のそれを思ふと昔が恋しいといふやうな、旅行者の作物もあります。
万葉集で名高いのが、
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