即、ふえる[#「ふえる」に傍線]と言ふ言葉は、唯増殖する意味だけではなく、分割する即、同じ性質を持つたものに分裂することである。このふゆ[#「ふゆ」に傍線]と言ふ言葉が、我々の考へて居るところでは、下二段の動詞だけであるが、昔程増殖する意味より分割する意味の方が多かつた。「品陀の日の御子 大雀《オホサヾキ》おほさゞき、佩かせる大刀。本つるぎ 末ふゆ……」(応神記)と言ふのは、根本が両刃の劒で尖が幾つにも岐れてゐる、即、刃物に股があり末が分裂してゐると言ふのである。ふゆ[#「ふゆ」に傍線]は魂を分裂さすことだから、一種のことほぎ[#「ことほぎ」に傍線]の唱言であつた。このふゆ[#「ふゆ」に傍線]と言ふ言葉が、はつきり名詞になると、季節の冬になる。これは疑ひない。年の終りになると、みたまのふゆ[#「みたまのふゆ」に傍線]の祭りを行ふ。その時期がふゆ[#「ふゆ」に傍線]なのである。それから極く小な形が出来て、季節の冬になつた。「みたまのふゆ[#「ふゆ」に傍線]祭り」を間に置いて考へると訣る。ふゆまつり[#「ふゆまつり」に傍線]のふゆ[#「ふゆ」に傍線]が、名詞的な感じを持つて来るのである。
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