照天姫を挿入した位だつたらう。
徳川家の聖時代。
聖の形の野伏し群と、少数の遊行聖と。
朝夷巡島記・御曹司島渡り系統に、東国の牧馬地方で、馬の試みの這入つたもの。
小栗にも、馬乗りしづめ法を、照天から授つたのだらう。
十郎姫と、照天姫と。
島々や天竺と、下界とでは、島々は新しく、下界が古い。
照天は下界に居なかつたけれど、死んだ形をした。その上、様々の苦労、国巡りは、下界の形だ。
男の救ひ出す形よりも、女に育てられる形が、主となつた。
甲賀三郎より複合多く、近代的だ。
人の姿を、動物その他に変形する術と、異形身と。
建御名方の立ち氷の如くなつたのは、異形身で、蝮虎杖花の如くなつたのだ。蘇生の為。
諏訪の湖に禊ぎして、蝮の身虎杖花の形から脱して、そこに、棲みついたのだ。
甲賀三郎の前型にも、呪はれて、蝮の如く、虎杖花の如くなつたのが、近江の湖水で直つた。其が、東へ移つて、信濃に残つた。更に進んで、蛇身になる。水辺の女や、水神へ嫁入りの娘の話となつた。
小栗も亦、元は現身霊を保持する身を失うて、異形身を得てゐた。其が、身を失うた餓鬼といふ事になつたのだ。熊野から、大和当麻に、又、箱根に移り、近江にも関係を持ち、又、相摸川にも移つたのだ。
当麻と水と関係の尠いのは、後入故か。
箱根の話が、相摸川の話と関係あることは勿論、此方が古い様だ。初花の名も、歌念仏に関係あらう。
小栗の毒飼ひは、食物による異形身の説明である。
小栗も蛇身に関係あるは、神泉苑の蛇と契つた為の流離だ。
 此は、本筋に関係のなさゝうな古い形の物語である。
其と共に、馬術を得たのだ。こゝに蛇身の形が見える。
蛇身の女と契ることは、水の女の故事にも関係がある。
小栗では、下界談は短い。現世における異形持続・遠路巡遊に変つてゐる。
常陸小萩の名と、奴隷と。
小枝・小萩・中将・少将・桂姫・初花・安寿・きく丸などの出自。
袖萩・小萩の名の固定と、女被官の通称。実名の唱へ替への源。采女。
八束小脛と、舎人生活と。都方に仕へた風の印象(狐飛脚の死)。他郷異形の者と見るか。
常陸・尾張両小萩とも、やきがね[#「やきがね」に傍線]攻めにあふのは、奴隷のしるし[#「しるし」に傍線]をつけたのだ。同時に、八束小脛の翼なども、遁走を避ける為の筋や、踝の辺に、細工したなごりであらう。
えだ[#「えだ」に傍線]を下女とし、えたとするのも、えた[#「えた」に傍線]にしるし[#「しるし」に傍線]をつけた風習の後か。
かたゐ[#「かたゐ」に傍線](かたゐざり、か)なども、筋を抜かれて、居るに両足を組まぬからの名で、奴隷の名だつたか。骨足らず・四つ足(四つ)などいふのも、其か。
ぼろんじ[#「ぼろんじ」に傍線]のぼろ[#「ぼろ」に傍線]も、よぼろ[#「よぼろ」に傍線]の略か。為朝の筋を抜いた話も、其だ。
安寿その他の中世の宗教名よりも、小萩は古い。
 とつぱ[#「とつぱ」に傍線]・すつぱ[#「すつぱ」に傍線]は、とらへはぎ[#「とらへはぎ」に傍線]・すりはぎ[#「すりはぎ」に傍線]などで、剥ぎだらうが、脛の聯想がありさうだ。
腰行の風も、其か。
横佩大臣のはき[#「はき」に傍線]なども、さうした聯想から出て、豊成にくつゝいたのだらう。萩の花及びえだ[#「えだ」に傍線]には、折る[#「折る」に傍線]よりも、よづ[#「よづ」に傍線]を多く使ふのは、此聯想を避けたのか。よはぎ[#「よはぎ」に傍線]と訓むべきなのかも知れぬ。
をり[#「をり」に傍線]も同様、是に関することで、をろがむ[#「をろがむ」に傍線]も、其。織《オリ》に通じて、後世、何織・織何といふ名が多い。扇をり[#「をり」に傍線]・小萩などは、其俤を見せてゐる。織女の聯想ではない。よをり[#「よをり」に傍線]のをり[#「をり」に傍線]も、折り伏して、齢を奉る義か。たよ[#「たよ」に傍線]は膕のよ[#「よ」に傍線]で、よ[#「よ」に傍線]を折つての義だ。五節も、五節折の折を避けたのだらう。脚の膕を五度折つて、鎮魂の義を奏する事らしい。
太陽井の話。井水の汲み難い平野地の話から、海岸水辺の物語に移るのだ。安寿の汐汲みなどは、後だ。
播磨風土記の萩原里は、萩井原の里の筈であつた。一夜、萩に絡んで、処女の死んだ話が、伴うてゐる。
「萩が花妻」も、古語だが、小脛の女の聯想で、女の奴婢の、色を以て仕へた処から出た語で、後には、唯の萩となり、鹿の配偶の様に考へられる事になつたらう。
廻りあうても知らぬのは、異形身だけでなく、よみ[#「よみ」に傍線]の所属の人を連れる事の出来ぬ為だ。
健児なども、こむらびと[#「こむらびと」に傍線]などではないか。字音としては、過ぎる。
ひかゞみ[#「ひかゞみ」に傍線]なども、びっこ[#「びっこ」に傍線]の語原らしい。膕の筋を抜く
前へ 次へ
全5ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング