鎮魂祭の歌の「……みたまかり、たまかりましゝ神は、今ぞ来ませる」と言ふ文句を見ると、外来魂を信じた時代からのなごりを残したのが訣る。而も、主上の形身[#「形身」に白丸傍点]なる御衣の匣を其間揺り動すのは、此に迎へ移さうとするのである。魂の緒を十度結ぶことは、魂を固着させる為である。魂の来り触れて一つになる時だから、たまふり[#「たまふり」に傍線]と言ふので、鎮魂の字面とは、意義は似てゐて、内容が違ふのだ。「ふるへ/\。ゆらゝにふるへ」と言ふ呪言は「触れよ。不可思議霊妙なる宜しき状態に、相触れよ。寄り来る御魂よ」の意であらう。触るは、ふらふ[#「ふらふ」に傍線]・ふらはふ[#「ふらはふ」に傍線]など再活用を重ねる。ふるふ[#「ふるふ」に傍線]もふらふ[#「ふらふ」に傍線]と一つ形である。
荒魂・和魂を以て、外来魂と内在魂との対立を示す様になつてからも、其以前に固定した形の、合理化の及ばない姿を存して居た事は、鎮魂祭の儀礼からも窺はれた。更に、旅行者の為に、留守の人々がする物忌みも、此側からでなくては釈けない。牀・畳などを動かさず、斎み守るのを、旅行者の魂の還り場処を失はぬ様にするのだ、と
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