題は生まれて来るのである。同時に又、多趣多様の唱導が、元極めて少数類型の分化に過ぎなかつた事も考へられるのである。だから、此種の文芸は、古い物程、罪障によつての流離を説く。此点殊に、説明を要する所であるが、今は此程度に止める。此は、その神人の奨める禊祓の法の起原を説明し、贖罪の原由を、神に基くものとする様になつて来てゐるのである。

わが国の古代宗教の中、旅行による布教法をとつたもの――すべての宗教が、其であつたに違ひないが――は、何時からか、海の水或は、山の水を以てする禊ぎを、儀礼の中心としたものであつた。時としては、単に其を行ふ呪法そのものゝ様にも見えた。さうして、神は其を人々に慂める為に、此土に姿を現《ゲン》じて居るものゝ様にすら考へられた。さうして多くの場合、此神自身之を行ふ事の代りに、神の介添へとも、神の育て主とも言ふべき大忌人があつて、神を守《モ》りながら、諸国を歩く。
さて、此神人団は、時として分裂して、ある適当な地に残り、一部は更に旅行を続けて行くと謂つた形を持つて居た。さうして、其儀礼の威力を正当に顕す為に、其神と、其儀礼との関聯する本縁を説く所の詞章を諷誦したものら
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