近い距離に、構へられる様にもなつた。其為こそ、伝襲的に愈々盛んになつた文学上の題目、海士《アマ》や山賤《ヤマガツ》の生活があつたのである。後に段々、単に文学者の優美に触れるものとしてよりか、扱はれなかつたとしても、言語伝承として、其形骸だけでも久しく存続した訣なのだ。此意味のものも、最古い姿においては存外、邑落自身の民の派出して生じたものと見られるのである。つまり祭祀の時の神として来向ふ若干の神人が、臨時に山中・海島に匿れて物忌みの後、神に扮装《ヤツ》して来ると言ふ風が、半定住の形を採つたのである。即、さうした里離れた地における隔離生活が、段々延長せられて行つて、遂にはある邑落に関聯深い特殊な儀礼奉仕の部落が成立する様になる。とゞのつまり、祭儀の為の奴隷村と言つた形を採つて、村同士の関係が固定したまゝ、永続する様になつて行く。而も更に次に言はうとする形の団体と、部落以外の人からは同一視せられて、邑落との関係が、非常に自由になつて行く。数個の邑落と交渉を生じ、更に幾つとも知れぬ檀那《パトロン》村を生じて、祝福を職業とする乞食者《ホカヒビト》となつて行つたものもある。だから実際は、山部《ヤ
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