つた。かうして盲目の唱導者が、漸く著しくなつて行つた。
私どもは今、顧みて神楽以前、日本文学の発生時代の事を語つてよい時に達した様である。
最初に色々あげた形のうち、遠旅《トホタビ》を来るとしたものが、此論文では主要なものとならなければならぬ。従つて、此咄し初めに、神楽を主題とした訣でもあるのだ。此は単に出て来る本貫の、遥かだと言ふには止らない。旅の途次、種々の国々邑落に立ち寄つて、呪術を行ふ事を重点において考へるのである。神としての為事と言ふ事は勿論、或は神に扮してゐると言ふ事をすら忘却する様になる。すると、人間としての為事即、祝言職だと言ふ意識が明らかに起つて来る。祝福することを、民族の古語では――今も、教養ある人には突如として言つても感受出来る程度に識られてゐる――「ほく」或は「ほかふ」と言つて居た。二つながら濁音化して、「ほぐ」「ほがふ」と言ふ風にも訓《ヨ》まれて来てゐる。その名詞は、「ほき」又は「ほかひ」である。だから祝言職が、人に口貰《クチモラ》ふ事を主にする様になつてからは、語その物が軽侮の意義を含むやうになつて来た。その職人を「ほきひと」「ほかひゞと」と称したのが、略せ
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