門外で警蹕をかけ、反閇を行うた神楽のあつた事を想像する。たとへば、ある神に属する神楽は、応天門――勿論朱雀門を過ぎて――豊楽院《ブラクヰン》の後房なる清暑堂に入り来つたとも考へられる。此歴史を守つたのが、清暑堂の御神楽となつた。西角井君の「研究」に拠つて物を言へば、明らかに単に、数種の宮廷神楽の一つの名称を言ふ事にとつてよいのだ。清暑堂焼亡の後も、他の殿舎の辺りで、「清暑堂御神楽」と言ふ名で行はれてよい訣なのである。此は、大内裡全体に対して行はれたものと考へる。内侍所の御神楽は、今すこし小規模で、至尊平常起臥の構内に関係したものと思はれる。言ふまでもなく、神楽奉奏の為に、神参入するのでなく、神入り来つた事の条件として、神楽が奉仕せられた訣である。後に本末顛倒して、神楽の為に時を設ける様になつたが、結局神楽は、元宮廷内で発生したものでなく、冬期の祭日に、外から入り来る異人の反閇《ヘンバイ》所作であつた事が考へられる。神楽次第からすると、内侍所の御神楽は、人長《ニンヂヤウ》の警蹕からはじまる。二声「鳴り高し」をくり返すと言ふ。即、群行神の主神が、茲に出現した形である。警蹕の本義から見れば、
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