的として、誇張による性欲咄と、滑稽・皮肉を列ね言ふのであつた。だから、詞章から言へば、いはひごと――鎮護詞――と言ふべきものを元として、其を更にくづして[#「くづして」に傍点]唱へたものらしい。「歌」物語以外において、日本文学の滑稽の出発点を求めれば、此点を第一に見ねばなるまい。態度としての滑稽は、「歌」ばかりからは出て来ない訣だからである。歌物語における滑稽は、歌諺類を、すべての人をして、信じ難い方法で以て、而も強ひて巧みに説明する技巧から出て来るのである。だが、其外に確かに、今挙げた別途の笑ひの要素が含まれてゐる。
かうした「いはひ詞」を持つて、諸国の檀那場を廻る様になる。其が、進むと千秋万歳《センジユマンザイ》である。此は、平安朝に早く現れて、而も人の想像する程の変化もなく、近代の万歳芸に連接してゐるのである。
併しさうした笑ひを要素とした祝言職以外に、もつと古風な呪芸者の群れがある。自団の呪術――主として禊祓の起原に関聯した叙事詩を説く事によつて其術の効果の保証せられるものと信じて居た――を持つて廻つた、各所の霊地の神人団が、其だ。此に信仰の宣布と共に、新地の開拓と言ふ根本的目的を持つて居た。つまりある信仰の拡まる事は、其国土の伸びる事となるのだ。
天子の奉為《オンタメ》の神人団としては、其|朝《テウ》々に親※[#「目+丑」、95−17]申した舎人《トネリ》たちの大舎人部《オホトネリベ》――詳しく言へば、日置《ヒオキノ》大舎人部、又短く換へて言ふと、日置部|日祀部《ヒマツリベ》など――の宣教する範囲、天神の御指定以外に天子の地となる。皇后の為にも、同様の意義において、私部《キサイツベ》が段々出来て行つた。かうして次第に、此他の大貴族の為に、飛び/\に認可せられた私有地が出来て来る。さう言つた地には、此に其建て主又は、其邑落に信奉せられてゐる呪法の起原の繋る所の叙事詩の主人公――元来の土地所有者の生涯の断片に関して語り伝へたものである。さうして、同一起原を説く土地の間において、歴史的関係が結ばれて来る訳である。
過去の人及び神を中心として、種々の信仰網とも言ふべきものが、全国に敷かれて居たのである。之を行うたのは、誰か。言ふまでもなく、巡游伶人である。而も、其中最その意味の事業を、無意識の間に深く成就して行つたのは、何れの団体であらう。其は、海部の民たちである
前へ 次へ
全19ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング