達したところも、一つの文学の新しい処女地ではあつたけれども、追随者の向ふ方角に気《ケ》どられて、自ら亦踵を返された。盲動であつたが為に、群行の中で、静かに一個の芸術を絞り出す思案をする間がなかつたのだ。
西行は、ともかくも個性に徹した文学を生んだ。其は、根本的に多少の拗曲を含んでゐたが、何にしても、江戸に到るまで、隠者階級の生活態度に、一つの規範を加へた。芭蕉は、彼の作物からわらひ[#「わらひ」に傍線]とわびしさ[#「わびしさ」に傍線]とを、とりこんだ。さうして芭蕉自身の絶え間ない文学的死と、復活とによつて、完全に主義とし、態度とした。さうして其影響を、国民の生活情調に滲み入らせた。孤独にして悲劇精神を持ちこたへて行つた西行の為事は、芭蕉の主義宣布以前に、近世日本の正しい芸術傾向と見做されてゐる心境をつくりあげてゐた。西行既に主義態度を思ひ到らないでも、実感と個性とに徹する事によつて、実現してゐた。
勿論西行とても、態度として、幽玄主義をとつたこともあつた。けれども、其素質が、真の寺家風でなく、堂上風にも向かぬわびしがり[#「わびしがり」に傍線]とうき世知り[#「うき世知り」に傍線]で
前へ 次へ
全76ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング