賞せられてよいはずだ。院の御不運を、うはの空に眺めた排通俊派の公卿たちも、あれを伝聞しては、さすがに泣かされて了うた事であらう。あの時代としての、最近代的な歌風であつたのである。創作因となつたはずの、
[#ここから2字下げ]
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと、人には告げよ。蜑の釣り舟(小野篁――水鏡・今昔物語)
わくらはに問ふ人あらば、須磨の浦に、藻塩垂れつゝわぶと答へよ(在原行平――古今集巻十八)
[#ここで字下げ終わり]
小野篁・在原行平が、同情者に向つて物を言うてゐるのとは、別途に出てゐる。
[#ここから2字下げ]
われこそは新島守りよ。隠岐の海の あらき波風。心して吹け(後鳥羽院――増鏡)
[#ここで字下げ終わり]
此歌には同情者の期待は、微かになつてゐる。此日本国第一の尊長者である事の誇りが、多少外面的に堕して居ながら、よく出てゐる。歌として、たけ[#「たけ」に傍線]を思ひ、しをり[#「しをり」に傍線]を忘れた為、しらべ[#「しらべ」に傍線]が生活律よりも、積極的になり過ぎた。さう言ふ欠点はあるにしても、新古今の技巧が行きついた達意の姿を見せてゐる。叙事脈に傾いて、稍はら
前へ 次へ
全76ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング