正統なる事を示し、中央地方の武家階級の信用を固めて、利福を獲ようとするまでになつた。定家が既にさうであり、其子孫皆、其方便に従うた。あちこちの権門をたのんだのが、かう言ふ意義から二流の皇統に岐《わか》れて奉仕した。新古今時代には、一時、伝統のまゝそつとして措いて、各流から超越した態度を示した。此も、新古今集の批判に忘れてはならぬ、極めてよい態度である。後鳥羽院の個性を、おし貫かれた結果である。
歌道の故実家伝統の間から抜け出して、新しい暗示をば具象化しようとした俊成の代表作物は、実は彼自身の感じた、正しい未来の文学其物ではなかつた。新古今の歌人たちも、俊成風の正しい成長と思うて居たであらうが、此|亦《また》逸れて外核ばかりを強く握りしめたに過ぎない。長明・西行・俊成を三つの隠者の型に、其が由来する所を説いた。此後続いた隠者の外的条件は、鴨長明がしたと信ぜられてゐる、第一の様式である。こゝに言ふ武家初期と、中期全体、それに末期|即《すなはち》江戸のさしかゝりまでは、かうした隠者が文学の本流になつて居るのである。
此時代に進むと、隠者の存在は、必然の意義を社会に持つものと見えて来る。俊成な
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