つた。権門に出入りして、私に親方・子方に似た関係を結ぶ風が、盛んになつて行つた。
題材や格調の新しい刺戟が、詩歌合せから歌合せに来た。わが文学評論の初歩と見る可き歌学・歌論は、歌合せの席上から生れたのである。新しい歌合せは、歌評から見ても、前代の歌学書・歌論書よりは、用語も、態度も、論理も、鑑賞も、文学的になつてゐる。前代の歌合せの左右講師になる人は、歌の学問・故事を知らねばならぬのだから、講師に択ばれる様な人は、段々師範家と云ふ形をとる。さうして其が、判者となり、勅撰集の選者たる地位を得る。名高い歌人は、文学者と云ふより、歌学の伝統を守る者、と云ふ方がよい位だ。其最後に出て、歌学の伝統をあら方集大成したのは、藤原俊成である。此人の態度は、即新古今集の中心となつた歌人らの主義と見てよいであらう。俊成は、神秘主義に煩はされてゐるが、芸術報恩説に達したのは、一途であつてうや/\しい性格と文学に持つ愛執の深さからである。
鴨長明のやうな半僧生活の修道者もあれば、又、西行の如き法師も含つてゐる隠者階級には、かうした堂上の故実伝統者も数へねばならぬ。此流の者は、皇族を大檀那とする事によつて歌道の
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