て居た。だから女房の文学と、隠者の文学との交替を、時のめど[#「めど」に傍点]として、時代をくぎつてもよいのである。庵室に住んでゐるのが、隠者についての先入主だが、此時代の隠者には、まるきり僧侶の制約に従うて、唯定住する所を持たぬを主義とする、雲水行脚の法師も籠めねばならぬ。其上、かうした階級の発生点になる人々の事も考へねばならぬ。身分は、公卿の末座、殿上人の上席などに居た者で、文芸・学問・格式などの実務に長く勤めた経験家が、其である。此は、歌会・歌合せには、古く五位の文官・武官などの歌詠みと聞えた者の、召される習はしがあつた為である。さうした人の一家をなした後を承けた子孫にも、この部類の人があつた。さうした文芸・学問・格式などに通じた、謂はゞ故実家に過ぎない人は、老後、法体して隠居しても、家を離れないで、俗生活をしてゐる。さう言ふ文芸的故実家の伝統は、存外早く現れないで、王朝も末一世紀半の中頃から、目について来るが、此までの歌論家・歌学者は、大抵、公卿の中位以上の人であつたが、文芸を愛好する階級も段々下つて行つた此頃になると、さうした故実家は、公卿の末席か、其以下のものに多くなつて行
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