に「はひ廻《モトホ》ろふ」と言ふ、主題に接近した文句に逢着した処から、急転直下して「いはひもとほる」動作を自分等の中に見出して、そこから「伐ちてし止まむ」に到着したのである。
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みつみつし久米の子等が 粟生《アハフ》には韮《カミラ》ひと茎《モト》。其根《ソネ》がもと 其根芽《ソネメ》つなぎて、伐ちてしやまむ(神武天皇――記)
みつみつし久米の子等が 垣下に植ゑし薑《ハジカミ》。口ひゞく 我は忘れじ。伐ちてしやまむ(同)
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此歌なども、久米部の民の家の矚目を順々に、粟原《アハフ》を言ひ、粟原に雑る韮《カミラ》の茎を見て、段々気分が纏つて来た際に、韮の根から、其を欲する心を述べ――其根《ソネ》が幹《モト》でなく、其根がも[#「がも」に傍線]と言ふ所有の願望を示す「がも」である――根を掘る様を言ふ時既に、主題は完成して、「其根芽《ソネメ》つなぎて」と根柢から引き抜く事の意より、其一党悉くを思ひ浮べ、直に「伐ちてしやまむ」と結着させたのである。第二首は説明が済んでゐるが、尚言へば、垣のもとの山椒の一種から「脣ひゞく」を聯想し、印象深く残つた一念を思
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