麻呂には見られぬ影響も、官吏の日本の詞曲を喜ぶものには、ある俤を其作つた歌の上に寓したことは、疑はれないと思ふ。

     七

支那の宮廷文学に著しいのは、荘重を尊ぶ傾向と、ともすれば淫靡に堕せむとする享楽態度とである。民間の説話なる小説には、唐以前に淫楽と華美とが現れ過ぎる程に見えてゐるが、宮廷や貴族の文学の公表する意図を以つて書いたものにすら、其が見える。性と恋愛との方面は、日本の奈良朝盛時の抒情詩に絡んで来るのであるから、今は言はぬ。
我が国のうたげ[#「うたげ」に傍線]と似て、宴遊を頌し、宮殿・園林を讃する何層倍も大じかけである方面は、有識の官吏に響いた。風俗を模する以外に、文学の側にも、多少の投影が意識無意識に拘らず、覊旅のうたげ[#「うたげ」に傍線]や、離宮や、遠国への行幸の際の宴席の即興歌の上に現れずには居なかつた。
日本人固有の表現法からして、外界を描写する態度の、そろ/\発生して来たものが、宴歌殊に旅の新室の宴席の当座詠によつて、愈《いよいよ》正式な叙景の姿をとりはじめたところへ、多少支那の宮廷文学の匂ひが、此にかゝつて来た。其為、叙景詩は藤原[#(ノ)]都の時代
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