事は、此ほか万葉集などを見ても知れる。
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新むろを踏《フム》静子《シヅメコ》(?)が 手玉ならすも。玉の如《ゴト》 照りたる君を 内にと、まをせ(万葉集巻十一)
新室の壁草刈りに、いましたまはね。草の如 嫋《ヨラ》へる処女は、君がまに/\(同)
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此旋頭歌は、もはや厳粛一方でなく、ほかひ[#「ほかひ」に傍線]の後に、直会《ナホラヒ》風のくづれ[#「くづれ」に傍点]の享楽の歌が即座に、謡はれた姿を留めて居るものではないか。歌垣のかけあひ[#「かけあひ」に傍線]に練り上げた頓才から、室の内外の模様に出任せに語をつけて、家あるじの祝福、賓客《マレビト》の讃美などの、類型式ながら、其場の興を呼ぶ事の出来る文句が謡はれる風が出来て来た。其が家を離れない間は、単なる叙景詩の芽生えに過ぎないといふ点では、道行きぶりや、矚目発想法や、物尽しから大《タイ》して離れることが出来ないばかりか、性的な興味を中心にする傾向に向ひさへしたらう。処が古代人の家屋に対する信仰や習癖が、特殊な機会に、古くから外界に向いてゐた眼を逸らす事なく、譬喩化する事なく、人事以外の物を
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