ふので、発想法から、文章の目的とする相手まで、祝詞とは違うて居る。よごと[#「よごと」に傍線]は生命の詞、即「齢詞《ヨゴト》」の義が元である。
寿詞の中、重要なものは、家に関するものである。新室ほかひ[#「新室ほかひ」に傍線]或は、在来の建て物に対しても行はれて、建て物と、主人の生命・健康とを聯絡させて、両方を同時に祝福する口頭の文章である。柱や梁や壁茅・椽・牀・寝処などの動揺・破損のないことを、家のあるじの健康のしるし[#「しるし」に傍線]とする様な発想を採る所から、更に両方同時に述べる数主並叙法が発生した。だから、天子崩御前の歌に、建て物の棟から垂れた綱を以て、直に命の長いしるし[#「しるし」に傍線]と見る寿詞の考へ方に慣れて、屋の棟を見ると、綱の垂れて居る如く、天子の生命も「天たらしたり」と祝言する様な変な表現をしてゐる。天智の御代のことである。
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天の原 ふり放《サ》け見れば、大君の御命《ミイノチ》は長く、天たらしたり(倭媛皇后――万葉巻二)
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此表現の不足も寿詞に馴れた当時の人には、よく訣つたのであらう。
寿詞は、常に譬喩風に家の
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