さはに 大宅《オホヤケ》過ぎ、春日《ハルヒ》の 春日《カスガ》を過ぎ、つまごもる 小佐保《ヲサホ》を過ぎ、
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平群《ヘグリ》[#(ノ)]鮪《シビ》の愛人かげ媛[#「かげ媛」に傍線]が、鮪の伐たれたのを悲しんで作つた歌の大部分をなして居るこれだけの文章は、主題に入らないで、経過した道筋を述べたてゝゐるだけである。さうしてやつと眼目の考へが熟して来て、
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たま[#「たま」に「(つゞき)」の注記]笥《ケ》には飯さへ盛り、たま※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]《モヒ》に水さへ盛り、
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と対句でぐづ/″\して後、
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哭きそぼち行くも。かげ媛 あはれ(かげ媛――日本紀)
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と、極めて簡単な解決に落着してゐる。この中の「かげ媛あはれ」は、囃し語として這入つたもので、元来の文句は「哭きそぼち行くも」で終つて居るのである。これも実際は、かげ媛[#「かげ媛」に傍線]の自作ではなくて、平群氏に関聯した叙事詩の中の断篇か、或は他の人の唯の葬式の歌かゞ、かうした伝説を伴ふ
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